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2015/07/24

『回想のブライズヘッド』上巻/『ブラジルから来た少年』『ハンナ・アーレント』感想

文庫で改めて読み始めた『回想のブライズヘッド』、案外ツルツル読めて、あっさり上巻を読了しました。こんなにスピード出して読めたの久しぶりです。(^^;)文字数も少ないかも……戯れに手元の『果てしなき旅』(偶然にもこちらも同じ岩波文庫)と比べてみたら、やはりブライズヘッドのほうが文字が大きいです。

引き合いに出してしまったのは、やはり内容から『果てしなき旅』を連想してしまったから。オックスフォードとケンブリッジで場所は違いますが、「オックスブリッジ」とひとくくりにされるくらいで共通項はもちろん多いですし、両作品ともコレッジでの学生生活、彼らの実家の…つまり当時のイギリスの富裕層の生活、若者の苦悩、といったモチーフで、主人公が淡い同性愛的な感情を抱く相手が大ざっぱに括って「世間となじまない」タイプなのも似てます。細かく見ればもちろんぜんぜん違うのですが…。

上巻のあとに解説が入っていて、フンフンと読んでいたら下巻の内容もあっさり出始めたのであわててそこでストップしました。もしかしてこれ、下巻に入れるべきものなのでは?(^^;)…それはともかく、下巻も読むのが楽しみであります。

上巻表紙の絵がパッと見『アナザー・カントリー』ケーリー・エルウィズをホーフツとさせたのですが、クレジットを読んだら作者イーヴリン・ウォーの26歳の頃を描いた絵だそうです。(3へえ) 隣は過去にもご紹介している『果てしなき旅』。個人的にはなんとなく後者のほうが共感する部分があるのですが、作者のスタンスの違いもあるせいかもしれません。(こんなジャンルに足を突っ込んでいる人間としてはマイノリティーかもなので書きにくいのですが、イギリスのお屋敷文化への憧れが乏しいほうなのです…興味はないことはないんですけど、根っから庶民なのか、はたまたヘソ曲がりなのか、素直に「好意的な憧れ」を抱けないんですよね…うーん(^^;))

 

以下は最近見た映画から。

『ブラジルから来た少年』

こちらは再見。ナチスの残党が南米パラグアイに逃れ、密かに恐ろしい計画を実行に移していた…という、ある意味SFでもある作品。グレゴリー・ペックが珍しく悪役(アウシュビッツで人体実験をしたヨーゼフ・メンゲレ役)なのです。老ナチハンター役で声が甲高く、一見弱々しいローレンス・オリヴィエがめちゃくちゃラブリーでした。そしてこの「弱々しさ」と、戦犯と相対したときの意志の強さを感じさせるシーンのギャップが素晴らしかったです。

過去に見たときはグレゴリー・ペックのファン目線で見ていたので、悪役のペックに違和感がぬぐえず、あまり楽しめなかった印象があります。今回はまったく楽しめました。背景の歴史的事実について知識が増えたのが大きいと思います。以前は、最初メンゲレという名前もでてこないし、ペックの演技も大げさなので、「彼がヒトラーそのもので生き延びたという設定なのか?」と思ってしまうところがあってわかりにくかったです…。(確信犯的演出なのかもですが) そしてオリヴィエ萌えも以前は感じなかった要素で…美老人萌えにも拍車がかかってきたようです。(^^;)ほかにスティーヴ・グッテンバーグジェームズ・メイスンブルーノ・ガンツ、カメオに近いですがマイケル・ガフなども出演。

今見るとちょっと単純化されすぎてる感もあり、キャストの豪華さのわりにB級感もただようのですが、当時は「新しい科学的知見」を盛り込んだストーリーだったんだと思います。それから、見た後に調べたら原作は1976年、映画は1978年で、実際のメンゲレが逃亡したまま死んだのが1979年だそうなので、実際にどうなっているかわからない状況での作品なんですね。かなりセンセーショナルだったのではないかと。

レンタル屋でペック作品に目が吸い寄せられたのは、『アラバマ物語』続編の話題などで最近たびたび写真を見ていたためかもしれません。(素直にアラバマ物語に手が伸びなかったところがへそ曲がり(^^;))

『ハンナ・アーレント』

こちらもナチス関連の映画。戦後、アドルフ・アイヒマン(ホロコーストに関与し、逃亡して1960年に捕まった元ナチス親衛隊員)の裁判を傍聴し、そのレポートをニューヨーカー誌に書いてバッシングを受けた実在のユダヤ人哲学者のお話。アイヒマンについては、以前テレビで実際の裁判の記録映像を使ったドキュメンタリーが放映されていたんですが、その映像が映画でも使われていました。アイヒマンは「自分の意志で」行なったのではないと繰り返し、アーレントはアイヒマンに見られる「平凡さ」を「悪の凡庸さ」と名づけ、従来考えられてきたような「利己心のための悪」とは別の、「人間性の放棄がもたらす悪」という概念にたどりつきます。加えて、ナチスに協力したユダヤ教指導者がいたこともレポートに含めたことから、「ユダヤ人なのにユダヤ人を批判している」、とユダヤ社会そのものからバッシングを受けます。

映画としては「ここで終わるの?」というハンパ感がありましたが、まったく違う意味で得るものが大きかったです。アーレントの言う「人間性の放棄」が、私たちの日常生活には蔓延しているからです。アイヒマンは組織のなかで命令に従っただけだ、と繰り返します。そしてそれが言い逃れでなく事実であり、理解できるというところに恐ろしさがあります。(映画のなかでも触れられる通り、理解と容認は別ものですが)

「思考の風がもたらすのは知識ではなく、善悪を区別する能力、美醜を見分ける力」というアーレントの台詞は、個人的に長年疑問を持ってきたことへの解答でもありました。自分の頭で考えることが、どんどん少なくなってきている恐ろしさを日々感じます。自分が実際にどう考えるのかより、誰に賛成すれば浮かなくて済むか、と風向きを見るようなことばかりさせられる圧力を感じるというか。アーレントは「考えることで人間が強くなること」を望んでいると言います。アイヒマンのような「人間性の放棄」をしないで、自分の頭で思考して、それを実行するということは、かなりの「強さ」を要求されると感じます。突きつけられるものが大きかったです。

ほかにここ数日で見たのは、レンタルDVDが
『見知らぬ医師』、『アイ・フランケンシュタイン』、『ドラキュラZERO』
テレビの録画で見たのが
『北海ハイジャック』、『シャークネード サメ台風2号』(おバカ映画だけどめちゃくちゃ楽しめた!(笑))など。

これらの感想も書きたいんですが、長くなっちゃったのでこの辺で。