2016/06/23

『シチズンフォー スノーデンの暴露』感想+ヴィスコンティのチラシで目の保養

見たかったエドワード・スノーデン君のドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』、ようやく見てまいりました! 「君」とか言ってごめんなさい。若くてかわいいものだからそんな印象になってる。(^^;)てなわけで、正直問題意識よりファンモードで見に行きました。そういう層も観客として見込まれてるんじゃないかな。私はレディースデー狙いでしたが、前売り券は「特製ポストカードつき」だったそうで。(この映画にもちらっと出てきますが、ジュリアン・アサンジさんもけっこう好き。この手のポジションに弱いらしい。お二人ともイケメンですしね(笑))

そして映画自体は、不謹慎かもしれませんが「面白かった」です。画面は動きも乏しく地味ですが、まったく退屈せず引き込まれました。宣伝に使われている大手メディアのコメントでもジョン・ル・カレジョージ・オーウェルが引き合いに出されていますが、そのノリで「抑制のきいたスパイ映画みたいな面白さ」があり、「しかもこれ現実なのよね?」という緊張感がじわじわ来ました。(もちろん、もしこれがフィクション作品だったら、ドキュメンタリータッチにしても淡泊すぎる撮り方ではあるのですが……でもあまり生々しくしないところが「スタイリッシュ」でもありました。編集が素晴らしいのでは。制作総指揮にはスティーヴン・ソダーバーグの名前もあります)


NSA(国家安全保障局)が一般人の通信を(テロ容疑者などだけでなく)無差別に傍受していた大量の証拠を、職員のスノーデン氏がリークした事件のドキュメンタリー。まだ終わっていない問題でもあります。タイトルは、映画の冒頭で引用されているテキスト(スノーデン氏からこの映画の監督ローラ・ポイトラスさんへ)の文末にあるハンドルネーム。パンフにはNSAの4人目の内部告発者という意味では、と書かれています。

リークが話題になった頃に、経過がまとめられたノンフィクション『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実』と、協力者のグレン・グリーンウォルド氏が書いた『暴露:スノーデンが私に託したファイル』を買っていました。グリーンウォルド氏と共に最初から関わっているドキュメンタリー監督・ジャーナリストのローラ・ポイトラスさん(関わるというか、もともとこういったテーマで活動をなさっていて、スノーデン氏からコンタクトして協力を頼んだ)が、初対面時から撮影していたことは本でも書かれていたので、忘れかけている内容(^^;)を復習するような感覚と、「書かれていたあの時の映像がこれ」という感慨もありました。

「事件」全体の経過を、関係する状況と合わせて俯瞰するには、『スノーデンファイル』のほうがわかりやすい気がします。でもグリーンウォルド氏の『暴露 スノーデンが私に託したファイル』は当事者の生の言葉ですし、サブタイトルの通りファイルの中身そのものの紹介にかなりのページが割かれていて、まさに「一次資料」です。グリーンウォルド氏の主張もストレートに書かれています。原題の『No Place to Hide』(隠れる場所はない)には、追われる身になったスノーデン氏のイメ―ジと、私たちの行動が逐一監視されている、というイメージが重なって感じられますね。

本で読んだときも、スノーデン氏が公開されていた写真の印象より落ち着いた、大人っぽい態度なのが印象的でした。映像で見るとひときわです。気負いも緊張も感じられないし、やってることの命がけ度に比べたらむしろテンション低すぎるくらい。捕まったら刑務所行きかもしれないし、拷問もあるかもしれないし、なにより「消される」かもしれないことをしているのに。よく理解して覚悟をしていると語り、淡々として時々ユーモアさえ見せます。

本でもこんなふうに書かれています。

「スノーデン氏はきわめて知的で理性的、思考は理路整然としていた。彼の回答は明快で、説得力があった。(…中略…)私たちはオンラインのやりとりだけで相手の印象を決めつけてしまいがちだが、やはり直接会ってみなければ本当の姿はわからない」(『暴露 スノーデンが私に託したファイル』p.68-69)

最初に対面場所にした香港のホテルでは、毎晩規則正しく10時半に就寝し、7時間半ぐっすり寝ていることにグリーンウォルド氏が驚いています。(グリーンウォルド氏のほうは2時間寝るのがやっとだったそうです)でも、映画ではスノーデン氏もだんだんやつれていくのがわかります。香港を離れて亡命してからの映像では目の周り真っ黒。さすがに大変だったんでしょうね。

淡々といえば映画自体かなり淡々としていて、正直「ことの重大さ」を感じ取るのが難しかったです。というのは、「実際にNSAの活動によって被られた一般市民の被害」という映像が出てくるようなものではないから、想像力を必要とするんです。

個人の言動が記録され、プライバシーが侵害されること、監視されていると意識すれば自由な発言がしにくくなること、など。お恥ずかしいですが、自分のこの件に関する問題意識・権利意識はまだとても低いと感じました。まだそれ以前のところでじたばたしている状況、とも言えるかもしれません。本に付箋や傍線でチェックした箇所を読み返して、遅まきながら少しずつ理解を深めようとしていますが、個人的には別の問題に向かい合うことが必要だろうと思います。自分のいる環境は、当然ながらアメリカの白人男性が置かれている環境とは大きく違いますから。

…スノーデン氏は名乗り出ることは初めから計画していたそうですが、リークした人物が表に出ることで、リークの内容より告発者の人格のほうに話題が移ってしまうことが心配だと話しています。目的は情報の内容に注目してもらうことで、まったく人々の興味をひかないで終わることを恐れていたようです。でも人物から興味をもって内容のほうに進んでいく自分のようなミーハーもおりますから、そこはいろいろなんじゃないでしょうか……。

私の場合、そもそもこの件に深入りするきっかけになったのは……出来事の「映画みたい」なところとスノーデン氏のイケメンぶりもさることながら……グリーンウォルド氏の同性パートナーがヒースロー空港で拘束された、という新聞記事でした。映画でもサクッとそのシーンはあります。そうなのか、と。ああもう、我ながら腐女子ってやつはこれだから……。(すいません!(^^;)でもこういうフックも引き出しが広がるきっかけになるのですよー☆←言い訳)

それはそうと、読み直した本のほうで面白かったことの一つが、このリークがきっかけでインドやロシアの政府機関でタイプライターが復権したことです。デジタルはハッキングされるもの、という認識になったんでしょうね。

「プライバシーを気にする人たちはインターネット以前の時代に戻りつつあった。タイプライター、手書きメモ、秘密のランデブーが再流行。伝書バトの復活も時間の問題だった」(『スノーデンファイル 世界で最も追われている男の真実』p.237)

映画でもグリーンウォルド氏がスノーデン氏に手書きメモで部分的に「筆談」し、そのあとメモを細かくちぎるシーンがありました。この方向に行くと、デジタル万能よりスパイ映画の絵ヅラが作りやすくなりそうですね……。(そこか私!(^^;))


予告編




*      *      *

さて、これを見るために、ものすごく久しぶりにシネマジャック&ベティに行きました。たぶん10年以上ご無沙汰です。横浜の小さなシアターで、良質映画やレア映画をかけてくれます。先日のまったり池袋に続き、なんか回顧を通じてモードが変わりました。いや~やっぱ映画は映画館で見なくちゃ嘘だわ。ほんとに。(なかなか難しいのでDVDにはほんとに感謝ではあるのですけど)

いろいろチラシもいただいてきましたが、夏には『ヴィスコンティと美しき男たち』と題して、ルキノ・ヴィスコンティ『山猫』と『ルートヴィヒ』修復版もかかるそうで! 行きたいですー!!!
アラン・ドロンとヘルムート・バーガー。ああ。もう。