2017年7月21日金曜日

ジョン・ワトスンのオリジナリティ/SHERLOCK『臥せる探偵』感想

またぎりぎりですが(^^;)、三話を見る前に二話の感想のメモを。一度しか見てないのですが、今回は最初から原語+字幕で見ました。どうも台詞のリズムとかが原語のものが好きらしいです。あとで吹替版で映像重視の再見をしようと思っております。
そんなわけで記憶違いとかあるかもなのと、書き出しただけで整理してないので長いのと(矛盾したところがあったらスミマセン)、また原作含めてネタバレてんこ盛りですのでご了承くださいマセ。

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今回はモファ様の脚本。冒頭からもってかれたのは、ジョンの幻視。この回は見ている側もジョンといっしょにメアリーの喪失をゆっくり受け入れていくようにしたい回だと思うんですが、こういう視覚的な方法があったか、と。(シーズン4はこの手の表現がたくさんありますね。視覚的に物語るのが。以前のマクギガン監督も映像は凝ってましたが、ちょっと違う語り口になっています。こういうのも好きです)そして「ああ、この人はこういう人だったよね」と改めて思い出しました。前話の最後で「おかしくなってた」ジョン、キャラをしっかり通させてるなあ、と改めて思いました。自分はシャーロックとジョン、という目線にどうしてもなりますが、メアリーにこんなにも救われていたんだ、と感じさせてくれました。普通でないジョンが、普通の人を演じられるくらい。

そして幻視に対する懺悔。「メアリーが考えるジョン」になりたかったという意味の台詞だったと思うんですが、泣きながら言うそれがとても印象的で……リアルで気持ちがすごくわかるし、自分にとってはこの回で一番の名シーンでした。それに対するメアリーの答えも秀逸でしたが、それ自体が「ジョンが考えるメアリー」の応答であるところが、この現代版のジョン・ワトスンが抱える闇を感じさせるシーンになっていると思いました。泣けるのと同時に、「どこかぞっとする」に近い感覚が起こりました。でも、この闇こそが現代版ジョンの魅力で、ある意味共感も呼ぶところだし、正典にはないオリジナリティだと思います。なによりマーティンの演技の貢献が大ですね。

トビー・ジョーンズはカルヴァートン・スミスだったんですね。そうか、タイトルからして『瀕死の探偵』ベースですもんね……(気づくの遅すぎ(笑))。この人の不気味さがすごく生きていて、ほんとに絵として怖かった。正直病室で具体的に殺人行為に及ぶところより、会議のシーンのほうが怖かったです。同調圧力と場を支配する権威者の力で、別に銃を突きつけられてるわけでもないのに「意に反する」行為を受け入れさせられる恐怖身近な恐怖ではないでしょうか? ブラックバイトも同じ構造だと思うし……日本では過労死問題の根と通じるもの。それがはっきり恐怖として描かれてました。身につまされすぎるシーンでした。

モリアーティやマグヌッセンと比べると深みに欠ける悪役ですが、最終的にシャーロックがジョンを救う――表裏一体でシャーロックの側がジョンを取り戻す、という意味のほうを大きく感じましたが――ためにあえて「地獄に落ちる」状態を作る目的で利用されたわけで、スミスのほうがシャーロックに目をつけて近づいたわけではないんですよね。悪人キャラとしての(シャーロックとのつながりの)浅薄さが、あとから考えると理にかなっていたんだな、と思いました。対象は誰でもいいんですもんね、この人は。俳優さんが大物なのでそれ以上を期待しちゃったんですが、あえて有名俳優の役を早めに殺したりするのと似た引っかけと思うと、シャーロックがあえて利用した、というところをうまく隠蔽していたなあ、と思います。(でも原作ベースで考えるとここはある意味忠実なんですね)

正典でも『瀕死の探偵』ではワトスンを呼び寄せるために死の病にかかってみせるホームズさん――いろいろ腐女子萌えのする台詞やらシチュエーションやら多い話です!(笑)――原作のほうはまた扱いが違いますが、今回本当にドラッグ中毒になってみせた――少なくともそう見えるシャーロック。原作並みに「じつは検査でドラッグ使用陽性と出るトリックを実現してました」、なんてことになったら……「ジョンを救う/取り戻すための命がけの行為」にケチがついてしまいますね。さすがに今回それはないと思いたいですが、「アイリーンが生きていた」ことでも充分「うわーん、過去の感動が台無しに!(涙)」という経験はしてるので(^^;)、いちおう何があってもおかしくないと覚悟をしておこうと思います。…この番組、特にこのシーズンは驚かそう、ひっかけよう、という方向のサービス(?)が細かく盛り込まれている印象がありますが、ものによってはサプライズというより「過去の感動のスポイル」になっちゃうので、やりすぎないでね……)

そして「きょうだい」。字幕が仮名だったのはこのためだったのかー…。あの「きょうだい」役の方、ジョンに色目を使った役とスミスの娘のふりをした役ではまるで違う人に見えました。みごとですねえ。(ほんとに別の人ではないですよね?)変装を明かすシーンで反射的に「女装」を期待していた私はやっぱり腐ってるなあ、と思いました。(期待しますよね?ね?(笑))うん、むしろ女装だったら手を叩いて面白がって済んだかもしれないんですが――もし本当に「きょうだい」だとしたら、ちょっと親族ネタに偏りすぎちゃう感じがして、正直心配になりました。(よけいなお世話)しかしクリフハンガーを毎回丁寧に入れますねえ……。

…親族ネタにいきすぎるのをあまり歓迎できないのは、以前別の作品…007の『スカイフォール』で、メインが「ジェームズ・ボンドの実家の秘密とボンド個人の過去」の話になっちゃってたのが、話がやせてしまってつまらなく感じた経験があったからです。それは「設定」であって「物語」ではないでしょ、という部分があまりにメインになりすぎたというか。敵がそういう部分を利用する、というのはよくありますし、ぜんぜんオッケーなんですが、何かさじ加減が違う感じが拭えませんでした。スパイ映画としての外骨格になるストーリーが内臓で構成されていた、みたいな違和感でした。冷戦構造がなくなったなかでMI6のスパイを主人公に、という縛りがありましたから、そういう工夫で乗り越えたのかな、という風に冷めてしまって。部分部分では楽しめたんですけど。今はまたいろいろと緊張した構造はありますから、また別の角度のスパイものはあり得るかも……でもあまりリアルを取り込むのは別の意味でデリケートな問題ありだし、制作時と公開時では確実に状況が変わってしまうだろうし、そのために架空のスペクターっていうクッションがあるんだし、そもそもボンドだし……ああ、ボンドに深入りすると話がずれてしまうので、ここでやめときますね。(笑)

「東風」は、イギリスでは冷たい、病気を運んでくるような不吉なイメージなんだそうで、日本とは違うんですね。以前(シーズン3のあと)にポンチ絵を描いたので、箸休めにちょっと掘り出します。日本で「東風」と聞くとこれが出てくる方多いんじゃないでしょうか。



…日本での東風のイメージは「春が来たことを告げる暖かい風」、ですよね。(個人的には、さだまさしさんの『飛梅』っていう歌の歌詞とセットの記憶です。「東風(ひがしかぜ)吹けば / 東風(こち)吹かば君は / どこかで思い起こしてくれるだろうか」と現代語訳と並べた歌詞で。思えば面白い使い方でしたね)

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…外骨格と内臓の比喩は、シャーロックでも使えるかもしれません。探偵として事件を解決する部分が外骨格で、シャーロック自身、ジョン自身のストーリー(メアリーや親族を含む)が内臓。両方が密接に絡むところが面白さでもあるシリーズですが、主人公に脅威を与える対象(外骨格の悪役)が親族になってしまうと内臓だらけになってしまわないかしらん? でもまた、「前話の最後で匂わせたものは引っ掛け」でまったく別の角度で進むのかもしれないし。

あ、引っ掛けといえば前回の「地獄に落ちろ、シャーロック」!なるほど、きれいに引っ掛かりました!(笑) 訳すの難しそう、とも思いました。同じ言葉("Go to hell, Sherlock.")でも文脈で日本語のニュアンスがかなり変わってしまうんですね。引っ掛けとしては「地獄に落ちろ」くらいのニュアンスにとってほしいし、全体通すと「地獄に落ちて」「地獄に落ちるのよ」みたいなニュアンスだし(あ、でもメアリーは女言葉使わないか)……「落ちろ」がメアリーの普段の言葉遣いと違うので違和感があり、そこがよけいに「作り物では」という感じを醸すには貢献していたんですが、日本語のニュアンスの幅が大きくて、ちょっと不自然にもなってしまいました。掛け言葉とか多いシリーズで翻訳大変そうですよね。あとからほじるほうはただ楽しいだけですけど……。

今回の『伏せる探偵』も、原題を見たら"The Lying Detective"で、Lyingが「嘘をつく」と「横になる」のかけ言葉。まさに臥せりながら嘘をついてたわけですね。一言でそれを掛ける日本語って思いつかな……いや、ちょっと待って。ああそうか、もしかして 事実を「伏せる」?(ほんとに今初めて気が付きました!A-HA体験!)いやいや、最初はピンとこなかったです。工夫されてたんですね……。

……ちょっと考えたんですが、もしシャーロックが(メアリーのメッセージによってではなく)自力で「ジョンはこうでもしないと救いの手を受け入れない」ことを理解して今回のような行動をしたとしたら……かなり身勝手な「ジョン取り戻し作戦」にしか見えなくなってしまいますね。原作のホームズさんとか以前のシャーロックならその線もありそうな気がしますが、メアリーの死を絡めるとちょっと無理。このシーズンのシャーロックは少し違うし。(これが成長なのかしら?)

…なんらかの形で「メアリーの退場とジョンとシャーロックのもと通り感」までこぎつける、という縛りで考えると、あのメアリーのメッセージという仕掛けと(まだ「じつは裏にモリちゃんがらみのアレが」的なのを期待してはいるんですが(笑))この原作を持ってきたというのは、やはりすごい工夫だなあ、と思います。(でも縛りがだんだん多くなってきて大変そう!いや、楽しいか!(笑))

気になっていた「シェリンフォード」という言葉が出てきていないし(このために、あの「きょうだい」は引っ掛けなんじゃ、という感じも残ってしまうんですねよね……パパとママのトーンとも差がありすぎ(^^;))、裏で糸をひいてるのはじつは……的な感じを期待してしまうんですが、この番組に予想は無駄かも。(笑)あの言葉がどんな使われ方になるのかも含めて、『空の霊柩車』のジョン風に「驚かせてくれ」と三話を待つことにいたします!

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